自然環境と切磋琢磨する厳しい必要性が、長い歳月の間に一貫した形を作り上げ、その磨き抜かれた合理性がいつしか美しい風情を醸し出す姿となる。
人間が他の動物と一番異なることは、環境に揉まれれば揉まれるほど、暮らしに磨きをかけていくことだ。
外部環境の脅威と対峙していた時、人間はその住処を、野生動物の体のように聡く適応力あるものにしようと努めた。しかし、いつしか人間がその環境のなかで安住できるようになって以来、人間の脳機能は、働く事自体を自己目的化し、際限なく巨大化し、大きな負荷になって人間を苦しめるようになった。
身体や住処は単なる物体ではなく、役割をもち、役割を果たすように機能し続けるものであることが基本だ。
生命活動の場合、環境のなかで最適を目指し続けようとする働きを引きついでいくと言い換えてもよい。形は、物そのものとして存在価値があるのではなく、その内部に秘められた掛け替えのない力を思いやるものなのだ。
『風の旅人#2』還るところ 佐伯剛 より